ビジネス英語の誤解―TOEICのスコアは意味があるのか?

TOEICのスコアなんて評価されない


最近は、会社が全社員にTOEICのスコアアップの目標を課したり、700点、800点以上、などTOEICのスコアを昇進条件にするケースも増えており、会社員の間ではまたTOEICブームが起きているようである。

しかし、はっきり言おう。TOEICのスコアアップを目的とした英語勉強は無意味である。やめたほうがよい。TOEICをいくら上げても、実戦で使える英語は身につかない。それなのに、日本のビジネスパーソンの多くは800点、900点などとスコアの目標を立てて、TOEICの勉強に励んでいる。大いなる時間の無駄、そして間違った目標設定である。世界中を見渡しても、TOEICにこれだけ一生懸命になっているのは日本と韓国くらいのものだ。

なぜTOEIC対策の英語学習は無駄なのか?

あなたが英語を活かせるグローバル企業に転職活動しようとする。本気でグローバル展開を行なっている会社であれば、応募者の英語力を測るのに、TOEICの点数ではなく、英語面接で判断する。だから、TOEICのスコアなど履歴書に書いても意味が無い。TOEICのスコアが990点だったとしても、面接で英語を話せなければ不合格である。また、もし、TOEICの点数だけで社員を「英語ができる人材」などとと評価するような企業がいたら、そのグローバル化のレベルは怪しいものである。

TOEICのスコアが990点でもビジネスの現場で英語が使い物にならない人間は大勢いる。TOEICの限界は、リスニング、文法、リーディングしかテストできないことで、英語での会話力、文章力の指標にはなりえない。実際のビジネスの現場では、英語を使って臨機応変にコミュニケーションできなければ仕事にはならないから、TOEICは仕事で使う英語の指標としては難しい。だから、採用側が本当に英語を使うことを期待されるポジションの採用を行うのであれば、当然、英語でインタビューを行うわけだ。

それでも、どうしても履歴書にTOEICのスコアを書きたいというなら、最低900点は欲しい。学生ならともかく、社会人が英語力を売りに転職活動するのであれば、900より低い点数なら履歴書には書かない方がいい。TOEICのスコアが高いからといって実戦で英語が使える証明にはならないが、逆に、本当にビジネス英語ができる人がTOEICのテストを受ければ900点くらいは楽に取れるはずだから。

TOEIC700点、800点台の点数では、ビジネスの実戦レベルでは使い物にならない。800点台の点数を履歴書に書いたところで、英語を使って仕事ができる人材を本気で探している企業からすれば「英語力が低い」と評価されるのが落ちだろう。足切りに合うだけである。

ビジネス英語の学習=TOEICのテスト対策、スコアアップ、という日本の残念な現状


テスト偏重の教育を受けてきた日本人は、テスト勉強=学ぶこと、になりがちだ。つまり、「TOEICのテスト対策をすること」がすなわち「英語を学ぶ」ことになってしまい、本来、「英語を学ぶ」ための手段にすぎないTOEICが、「目的」にすりかわってしまっているのだ。長年、テスト偏重の教育に浸かってきたため、テストという目標がないと英語勉強ができない悲しい習性がそこにある。そのため、「グローバル化のために社員の英語力を高めよう」というと、すぐ「TOEICの点数を上げよう」ということになり、「TOECの平均点数が上がった」→「我社の英語力は向上している」となってしまう。大変、残念な現状である。

正確なデータは公表されていないが、TOEIC受験者の大部分はアジア人であるという説がある。確かに、筆者の周りでも、日本、韓国ではTOEICの受験経験者が多い。どちらも、大学受験がテストに偏重した国である。一方で、ヨーロッパ人でTOEICを受けた、という人間には出会ったことがないし、そもそもTOEIC自体が全く話題にならない。

本来の目的は、「実戦で使える英語力を習得する」ことにあるはずだ。決してTOEICの点数を上げることが最終目的ではない。990点を取っても、「グローバルで通用するビジネス英語」は何ら保証されない。

それでもTOEICのスコアを上げたい場合


現実問題としては、最近のビジネス英語ブームのあおりで、「会社での管理職への昇進条件としてTOEICでいいスコアをとらないといけない。ビジネス英語の実戦力なんてどうでもいいから、とにかくスコアを上げたいんだよ。」という切実な状況に置かれた人も多いだろうが、そうだとしても、TOEIC対策のためにテスト勉強することはお勧めしない。

そもそも、TOEIC対策のテスト用教材だけをやっていては、スコアはすぐ壁にぶつかる。筆者も20代のころ、TOEICのスコアを上げたくてTOEIC用の教材を使って勉強していた時期があったが、どうしても900点の壁を超えることはできなかった。それが、TOEICの勉強は一切やめて、実戦的なビジネス英語の学習に注力し、しばらくしてから、ふと思い出したようにTOEICを受けたところ、スコアは一気に960点に上がった。TOEICのリスニング問題はやたらゆっくり聴こえたし、長文も時間的余裕を持って読むことができた。実践的な英語の学習をしていれば、TOEICのスコアは後からついてくる。テスト対策には、試験直前に、模試を1回分やって問題形式を理解しておくだけで充分である。

TOEICに対しだいぶ否定的なことを書いたが、価値を全否定しているわけではないことは付け加えておく。少なくとも、リスニング、リーディングの力を図る上ではいい指標にはなるから、英語を勉強する上で何らかのベンチマークが欲しいという人はTOEICを受験するのもいいだろう。ただし、TOEICは手段であって、点数を上げることが最終目標ではない、ということは肝に銘じておいてほしい。

追記)この記事を書いた後に、TOEICがスピーキングテスト/ライティングテストを始めたということを知った。筆者自身はそのテストを受けたことがないため、これが英語のスピーキング、ライティング能力を図る有効な指標足りうるかどうかは分からないが、インタラクティブなコミュニケーション能力を図ろうとする取り組み自体は評価したい。ただ、前述したとおり、TOEICのスコアは採用側は評価しないので、高得点を取っても意味はない、という点は変わらない。

TOEFLの勉強も無駄


ちなみに、社会人にとってはTOEFLも無意味である。TOEICに反対する根拠として、「英語力を図るテストではTOEFLが世界のスタンダードだ」などと言う人もいるが、こういう人はTOEFLを受けたことがないのだろう。そもそもTOEFLは「英語で大学生活を送れる」ための英語力を図るものであり、リーティングの英語の内容は人文・科学の一般教養、リスニングは学生や先生との会話を想定したものであり、ビジネスとは関係ない内容が出題される。TOEFLでビジネスの英語力を図ることはできない。

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